シンプルに、うまい!」
こだわったのは、
お酢屋の私たちだから
できること

INTERVIEW

INTERVIEW

マルカン酢の『ゆずぽん酢』・『すだちぽん酢』といえば、家庭に長く愛され続けている看板商品である。今回、そんな看板商品を大幅にリニューアル。そこには、並々ならぬ思いが詰まっているに違いない。開発者である足立 麻衣子(あだち・まいこ)さんを訪ねてインタビューし、『お酢屋がつくった こだわりぽん酢』誕生までのストーリーを伺った。

“お酢屋”のプライドとこだわり

「私たちだからこそつくれるぽん酢って、どんなぽん酢なのだろう?」

マルカン酢の看板商品である『ゆずぽん酢』と『すだちぽん酢』のリニューアルに際し、足立さんは考えていた。つくり手だけでなく、つかい手のプロであるシェフ、丸山 智博(まるやま・ちひろ)さんも招いて、客観的な視点も得ながらディスカッションを重ねていった。

その過程で、足立さんはある気付きを得る。それは、誰もが当たり前だと思っていたこと ー自分たちは、“お酢屋”であるということー を見つめ直すことだった。世の中に出回っているぽん酢をよく見てみると、醤油メーカー、出汁メーカー、農家さんなど、さまざまなつくり手がいることがわかる。

「“お酢屋”の私たちがつくるのだから。純米酢にこだわったぽん酢をつくりたい!とその時思いました」

370余年もの歴史があるマルカン酢が誇りに思い、他社には真似できない独自の味わいを持つお酢こそが、「純米酢」なのだという。

ぽん酢などの調味酢には、一般的に、アルコールを添加してつくられる「醸造酢」が多く用いられている。その中でも、良質の国内産米100%を使い、まずは蒸した米に麹をふりかけ、そこから純米酒をつくり、それをさらに酢酸発酵させて醸造したお酢だけが、「純米酢」と呼ばれる。

お酒を仕込むところから始まる「純米酢」づくりは、アルコールを添加してつくる「米酢」と比べて、圧倒的に手間も時間もかかる。けれども、そのぶん旨味も増し、複雑で奥深い味わいになる。

「純米酢を使うことで、化学調味料やエキスを一切使うことなく、味に深みと旨味を持たせることができました。また、純米酢の味わいを活かすため、それ以外の材料には品質の良い果汁とだしとを厳選し、極力シンプルに配合しました」

何十通りもの試作を重ね、丸山シェフらとともにその使い方をイメージしながら、着想からものの数週間ほどで新しい味が完成していった。

「シンプルに、うまい!と思いましたね。余計なものが入っていないから、飲めちゃうぐらい美味しい」

これこそが、“お酢屋”のプライドをかけてつくったぽん酢なのだと、足立さんは満足げに教えてくれた。

多様な経歴が生み出した、
足立さんのユニークネス

現在マルカン酢でブランド戦略室長を務め、ブランド力を高めるための商品開発を手がける足立さん。さぞかしお酢一筋でここまで来たのだろうと思いきや、そのキャリアは実にユニークだ。

生き物が好きだという理由で、大学では農学部にて畜産を学び、卒業後は、産地へ行きたいと農場で働き始める。そこで食べ物について勉強すべきと考え至った足立さんは、専門学校で勉強しながら栄養士を取得。その後、病院や福祉施設といった栄養士現場、コンビニに並んでいるお弁当やおにぎりなどを製造する食品工場、終いには夜学で製菓を学びながらパン職人を経験するなど多様なキャリアを重ね、ついにマルカン酢の門を叩いた。あらゆる現場で食品をつくることに関わったのち、最終的には「メーカーで働きたい!」という思いが湧いてきたのだという。

商品開発室に配属されるやいなや、まず足立さんが実践したのが、自社商品を使った料理メニューの開発だった。

「うちのお酢って本当に美味しいんですよ。そしてとにかくたくさんの種類があるんです。でも競合も多い業界で、ただ『美味しいですよ』と言うだけでは選んでもらえなかった。ならば!と、全ての商品一つひとつに対してメニューを考案し、『こう使ったら美味しいですよ』と提案していくことが必要だと考えました」

そのようにして、足立さんは誰に指示されるでもなく、お酢を使ったメニューをひたすらに開発し始めた。「マルカン酢のつくるお酢の魅力を伝えたい」という一心で、足立さん自らが生み出した仕事だった。考案したメニューは、1,000以上にもなるという。

「歴史のある会社なので、お酢そのものに詳しかったり強い思いを持っていたりする職人は、社内にたくさんいるんです。だから私は、今まで多様な食のジャンルで働いてきたことを逆手にとって、自分にしかできない提案をしていきたいと思うようになりました」

今回リニューアルした『ゆずぽん酢』や『すだちぽん酢』のような、素材にこだわった王道商品はもちろんのこと、足立さんが得意とするのは、使うシーンが見える商品。例えば、「ワイングラスで飲めるお酢」をイメージしてつくった、カベルネソーヴィニヨンやシャルドネを使ったビネガードリンクなどだ。新商品についてあれこれ思案する度に、これをつくりたい!というイメージが降って浮かぶのだという。

同時に、そんなユニークなアイデアを「面白いね」と受け入れてくれる懐の深さが、マルカン酢にはある。創業370余年の老舗お酢屋は、伝統を守ることと同じぐらい挑戦することを大事にして、今日も次なるアイデアを練っている。

気軽に使ってもらえる
ぽん酢を目指して

「ぽん酢って、『鍋の時に使うもの』と思っている人も多いんじゃないかな。そうではなくて、家の冷蔵庫にいつもあって、醤油に並ぶぐらい食卓に出して使ってもらえる存在になりたいんです」

それにはまず、何にかけても美味しく、家庭で使いやすい調味料であることが大事であると、足立さんはいう。このぽん酢は、みずみずしい旬の野菜にも、ジューシーな肉料理にも、さっぱりとした魚料理にも合う。「ぽん酢味」が主張しすぎることなく、素材本来の持つ甘味や酸味、辛味などを引き立てることに長けている。

和食に使うイメージの多かったぽん酢だが、油分との相性がいいため、オリーブオイルと合わせてカルパッチョにも、ごま油と合わせてサラダにも、料理のジャンルを狭めることなくさまざまなアレンジを楽しむことができる。

「これは、丸山シェフから教えてもらったこと。私自身今まで何千とメニューを考案してきましたが、オイルってこんなに合うのか!と感動しました」

また、中身とは別に、商品自体のたたずまいも大事であると足立さん。思わず食卓に出したくなるよう、デザインにも細部までこだわった。シンプルであること、上質であること、こだわりを持っていることが伝わるように、足立さん自らがデザイナーと細かなやりとりを重ね、完成させたという。

そうして、『ゆずぽん酢』と『すだちぽん酢』は、既存商品のリニューアルながらも今までとは全く異なる商品として生まれ変わった。

これ以上引く要素がないほど削ぎ落とされた、こだわりの純米酢と厳選されたシンプルな材料。
潔い白地の和紙に、品と味わいのある手書き文字が印象的なパッケージ。
なんといっても、『お酢屋がつくった』というネーミング。
足立さんの、そしてマルカン酢の覚悟が、ひしと伝わってくる。

「完成してからも、自分たちの想像していた“ぽん酢のイメージ”を、いい意味で裏切られ続けています」

新しいメニューでぽん酢を味わう度、「こんな味も出せるのか!」と驚いてばかりだと足立さん。お酢を愛するつくり手とつかい手、二人三脚で挑んだからこそ気付けた、お酢屋のつくるぽん酢の可能性。それはまだ、とどまる所を知らない。

足立 麻衣子(あだち・まいこ)

マルカン酢株式会社 ブランド戦略部長
管理栄養士・フードコーディネーター

愛知県名古屋市生まれ。神戸大学農学部で畜産を学び、同大学院を卒業。農場で産地に関わる仕事をしたのち、病院、工場、ベーカリー、酒造会社など幅広い現場で調理や商品開発を経験。マルカン酢株式会社へ入社後は、メニュー開発、販売企画、講習会講師と活動の幅を広げ、現在はブランド戦略室にて商品開発を行う。